
すっかり日が落ちた山道を足元に気をつけながら下って行くと、足音が聞こえてきた。
こんな時間だというのに、小さな男の子を背負った老人が足早に坂道を登ってくるではないか。
男の子は小さいといっても5歳ぐらいには見えた。
軽々背負うのは容易ではない重さだろう。
遊び疲れたのか、すっかり眠っているようだ。
距離が近づいてくると、月明かりに照らされた老人の顔もはっきり見て取れた。
こちらは下りにもかかわらず息を切らしているというのに、老人は表情一つ変えずに登ってくる。
顔に刻まれたシワから推察して有に70歳は超えているように思えた。
それとは対照的に足取りはしっかりとしていて快活そのものだった。
すれ違いざま、「こんばんは」と声をかけると、老人はもごもごとクチを動かし何かつぶやいたようだった。
きっと挨拶を返したつもりなのだろう。明らかに村のものではない者に警戒心を抱いたのかもしれない。
そのときちょうど男の子が目を覚ました。
僕は愛想をよくしようと思い、男の子に声をかけた。
「やあ坊や、いいね。おじいさんにおんぶしてもらえて」
すると、まだ眠そうだった男の子が突然大声で言った。
「おじさん、なんてこというんだよ!」
僕が何が起こったのかわからず呆然としていると、二人の姿は闇の中へ消えていった。
さて、いったいどうしたというのでしょう?